日本産業科学学会設立の趣意

日本産業科学学会設立の趣意

 わが国の産業はいま、構造変革と国際共存体制の構築が求められている。これは通商摩擦、NIESの追い上げ、円高すう勢、技術革新、高度情報化、経済のソフト化、サービス経済化、市場ニーズの多様化などの時代の潮流のもと、バブル経済崩壊後の複合不況において一挙に表面化したものである。この激変する状況のなかで、日本の産業が今後とも発展しつづけるためには、市場開放、規制緩和等による産業構造の変革と、世界各国との市場の共有化、さらには産業構造の国際的分業化が不可避的な課題となったのである。

 換言すれば、日本の産業はいま、従来までの経済性重視、利益偏重ではとらえることができない新たな価値観を模索しなければならない局面に立たされているといえよう。

 このような最近における日本の産業に対する学問的研究には、複合的な専門的知識や経験の蓄積、交換が必要である。そのためには、専門領域を異にする研究者や実務者の協力が要請されるだけでなく、その協力を実効たらしめる場の設定が望まれるようになってきた。

 もとより、上述のごとき研究は、今日のような先端技術産業の時代から遠くさかのぼった産業発展の歴史をも視野にいれ、かつそれとの関連において体系化に近づける必要がある。また、現在脚光を浴びているマルチメディア、環境保全などの新産業の創出を新たな価値観を生み出すものとして、いかに位置づけるかを考える研究でなければならない。

 さらに、 産業政策との関連における考察が重要であり、「90年代の通商産業政策のあり方-地球時代の人間的価値の創造へ-」において示された産業(生産重視)から人間(生活重視)への視点の転換を踏まえているかの検討も当然なされるべきであろう。

 日本の産業に関する研究は、産業そのものの現実を知ることを出発点とする。これを離れて産業の理論的研究はほとんどありえない。この観点から、日本の産業の現実を理論と実践の緊密な相乗作用のもとで研究するならば、われわれは日本の産業のあるべき将来像を鮮明に描くことができるものと確信している。

 以上のような目的意識をもった研究は、ある特定分野についての専門知識の蓄積だけでは不可能である。もとより、各人がそれぞれ専門知識を蓄積することの重要性は当然の前提ではあるが、これに加えて、いまわれわれに求められているのは異種専門家・実務家による活発な交流である。

 かくして、日本産業の研究というきわめて広範囲な研究目的に関して情熱を共有する専門家・実務家が一同に会し、自らを豊にするとともに、日本の産業研究をさらに深めることができる「場」をつくることが緊急事となってきている。

 本学会は、この「場」の設定による日本の産業研究及びその研究成果を広く普及させることを目的として設立するものであることをここに宣言するものである。

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